酸素が嫌いな歯周病菌
歯周病は、むし歯と同じく細菌感染症。歯周病の原因となる細菌は複数あり、どれも酸素が苦手なことが特徴です。口腔内にやってきた(感染)後は酸素が届かない歯肉縁下に住みつき、数を増やしていきます。
下記の図をご覧ください。これは、歯を磨かないでいるとバイオフィルム内の細菌がどう変化するのか調べたもの。
最初の数日は危険度の低いグラム陽性菌などからバイオフィルムが形成されますが、4⁻5日後にはグラム陰性球菌と桿菌、さらに7⁻8日後にはスピロヘータなども出現していることがわかります。
歯肉縁下に歯周病菌が増殖しないよう、定期的に取り除くことが歯周病予防の基本です。
- 歯肉縁下の細菌を取り除ける、デンタルフロスでのケアを習慣にする
- そもそも歯肉辺縁に細菌がたまらないよう、ワンタフトブラシなども活用する
歯周病菌vs免疫細胞
では、歯周病菌が歯肉周辺に残り続けるとどうなるのでしょうか。
このとき、体はなんとかして細菌を排除しようと奮闘。血液や唾液の中にいる免疫細胞が活発に動き出し、歯周病菌と戦います。
ここで免疫細胞が歯周病菌に勝てば、歯肉は健康なまま。免疫細胞が負けると、歯肉が腫れたり出血したりといった症状が起こります。
実際に、加齢によって免疫力が下がると、歯周病患者の割合が増えるというデータも。
歯周病を防ぐには歯周病菌を取り除くことはもちろんのこと、免疫力を下げないよう工夫することも大切です。
- 食事、睡眠、適度な運動など基本的なことに気をつける
- 身体を冷やさない
- サプリメントなどにも頼る
「歯肉炎」から「歯周炎」へ
歯肉縁下に歯周病菌が増え、免疫細胞が彼らに負けてしまうと、歯肉の縁が赤くなったり、ブラッシングで出血したりといった症状が出てきます。これが、「歯肉炎」。文字通り歯肉に炎症が起こっている状態で、歯周病の初期症状です。
この状態を放置し続けると、歯周ポケットが深くなり、歯槽骨が溶けて歯が動揺するなど症状が悪化。これが「歯周炎」です。
歯周病と一言で言っても、歯肉炎と歯周炎という2つの段階があるのです。
ここで知っておきたいのは、歯肉炎の状態であればケア次第で健康な歯肉に戻せるということ! 歯肉炎は健康をキープできるかできないかの重要な分かれ道です。「歯肉がちょっと腫れているだけ」で済まさず、よりしっかり患者さんに向き合いましょう。
- デンタルフロスの必要性・使い方を理解してもらう
- 歯肉縁上・縁下を丁寧にクリーニング。必要であれば来院回数を増やす
歯周病と口臭
歯周病に罹患したとき、発生する症状のひとつに口臭があります。
歯周病菌は、食物残渣などに含まれるたんぱく質やアミノ酸、血液に含まれる鉄分などが大好物。こうした栄養分を摂取しては、次々とガスを発します。これが、口臭の正体です。
歯周病の口臭はとても強烈で、その成分には「三大臭素」と呼ばれるものが含まれています。
- メチルメルカプタン…玉ねぎが腐ったときのような匂い
- 硫化水素…卵がくさったときのような匂い
- ジメチルサルファイド…キャベツが腐ったときのような匂い
口からフワーッと漂うため、本人よりも周りが先に気づくことも。
非常にデリケートな問題のため、その人の状況や性格などを考慮しつつ工夫して伝えてみましょう。予防や改善の近道は、やはり毎日歯周病菌を取り除くことです。
- 歯周病の症状があることを伝え、口臭の“可能性”があることを伝える
- 「あなたのお口が臭う」ではなく、「細菌が臭いを出している」と伝える
- 紙コップにハーッとしてもらい、患者さん自身にチェックしてもらう
- 歯周病菌は酸素が苦手なので、歯肉縁下で増殖する
- 免疫細胞が歯周病菌に負けると炎症が起こる
- 歯肉炎の状態であれば健康な歯肉に戻せる
- 口臭の原因も歯周病の可能性がある
ビョルン・クリンゲ アンダース・グスタフソン.2017年.『スウェーデンのすべての歯科医師・歯科衛生士が学ぶトータルペリオドントロジー』.
ペール・アクセルソン.2009年.『本当のPMTC その意味と価値』.
NPO法人最先端のむし歯・歯周病予防を要求する会.2013年.『あの人のお口がにおったのはナゼ?』.
関山牧枝.2017年.『むし歯と歯周病の「病因論」』.
発行元はすべてオーラルケア