むし歯や歯周病になりやすい部位がある
1970年代スウェーデン。当時開業医だったアクセルソン博士は、多くの患者さんの口腔内を診るなかで疑問を持つようになります。
むし歯や歯周病は決まった部位にできやすい。しかもその部位は、年齢・性別問わず共通している。そう気づいた彼は、こんな仮説を立てました。
“むし歯や歯周病になりやすくプラークが停滞しやすい部位”がある一定のパターンに限られているのなら、そこを“リスク部位”として集中的にクリーニングすればいいのではないか?
口腔内全体ではなくリスク部位を集中的にクリーニングすることが、歯を守るために必要なのではないかと考えたのです。
自己診断に基づいたセルフケア
ただ歯科医院でのクリーニングは年に数回だけ。プラークは日々たまるので、毎日の歯磨きのなかでもリスク部位を意識したケアが欠かせません。
では、患者さんに日々適切なケアを行なってもらうにはどうすればいいか?
アクセルソン博士は、「自分の口腔内の状態を理解する力、対策を考える力=自己診断力」を育む必要があると考えました。自分で口腔内をチェックし、そのときに合った方法でケアできれば、リスク部位のプラークを取り除けるからです。
歯を守るために必要な3つの要素
こうして、アクセルソン博士は歯を守るために必要な要素を以下のようにまとめました。
- 必要に応じたディブライドメント
- リスク部位にフォーカスしたPMTC
- 自己診断に基づいたセルフケア
そして、これらの要素に効果があることを実証するため、長期の臨床研究を始めました。
30年にわたる臨床研究
1972年アクセルソン博士はカールスタッド市民375名に対し、2~3ヶ月の間隔で予防措置を行なう研究をスタート。予防措置をしないグループと比較しました。
・必要に応じたディブライドメント
・リスク部位にフォーカスしたPMTC
・自己診断力を育むセルフケア指導
・年1回の健診のみ
・予防措置はなし
6年後
6年目に2つのグループを比較すると、大きな違いが見られました。
アクセルソン博士が考えた予防法に、明らかな効果があったのです。
※このまま実験を続けるのは倫理的に良くないという理由から、この後はコントロールグループにも予防措置を行なうことになりました。
30年後
さらに研究開始から30年経つと、驚きの結果が。定期的に予防措置を行なった人が30年間で失った歯の本数はたったの0.6本で、確率にすると97.7%歯が守れていたのです! しかも損失の原因はすべて破折や外傷。むし歯や歯周病で歯を損失した人は一人もいませんでした。
また、スタート時に20~35歳だったグループ1も、51~65歳だったグループ3も結果はほぼ変わらず。「何歳からでも適切なケアを行なえば歯を守ることができる」と証明されました。
この研究によりカールスタッド市は「予防歯科実験都市」と呼ばれ、むし歯減少率の世界記録を達成。スウェーデンは今でも予防先進国として、多くの人が自分で自分の歯を守っています。
- 歯を守るには、リスク部位を集中的にケアすることが大切
- 家でもリスク部位をケアするため、自己診断力を身に付ける必要がある
- 適切なケアを行なえば、何歳からでも歯は守れる
ペール・アクセルソン
元スウェーデン・イエテボリ大学歯学部教授。PMTCの生みの親。1960年に王立ストックホルム大学歯学部卒業後、王立イエテボリ大学歯周病学教室にてリンデ教授に師事し、1978年カールスタッド市歯科保健センター所長と歯科衛生士学校校長を兼務。スウェーデンの予防歯科を牽引してきた。2019年没。
ペール・アクセルソン.2009年.『本当のPMTC その意味と価値』.株式会社オーラルケア.