患者さんに話してもらう
フロスの必要性を丁寧に説明したり、セルフケアの大切さを熱意をこめて話したり。患者さんのためを思えばこそ、一生懸命伝えたくなります。そのとき、患者さんはどんな様子ですか?
「はい」「なるほど」とあいづちを打っているのを見ると、ちゃんと聞いてもらえた気がします。でも実際は、印象や記憶に残っていない可能性も……。
振り返ってみて、もし自分が話す割合と患者さんが話す時間が「9:1」や「8:2」になっていたら、その割合をまず半分に。質問の回数を増やして、患者さんにより多く話してもらうようにしてみましょう。自分で考えたこと・発した言葉は、印象にも記憶にも残ります。
「健康でいたいのはナゼ?」を聞く
親に「勉強しなさい!」と言われるとやる気がなくなり、自分で必要だと思ったときには頑張れる。そんな経験はありませんか?
人は「他人に説得されたときではなく、自分で必要だと思ったときに行動する」と言われています。
そこで患者さんに投げかけたいのが「どうして健康でいたいと思う?」という質問です。
「将来入れ歯になりたくないから」「〇〇をおいしく食べたいから」「歯がキレイと思われたいから」など、患者さんにはそれぞれ“自分なりの理由”があるので、それを意識的に引き出してみるのです。
願いや目標は言葉にすることでより明確に! 自然と「そのために何をすべきか」という発想になり、行動につながりやすくなります。
焦らず、働きかけ続ける
毎日フロスをしたほうがいいとわかっていても、ついさぼってしまう。このとき患者さんの心の中には「朝起きたときにスッキリする」という“フロスをするメリット”と、「サボればゆっくりテレビを観られる」という“フロスをしないメリット”の両方があります。「わかっているけど……」と葛藤している状態です。
こちらとしてはヤキモキするのですが、実はこれ、行動を変えるときに誰もが必ず通る道! 「きっとこれから!」とポジティブに捉え、じっくり時間をかけるのがポイントです。
たとえば、次の来院時に「あれからどうですか?」と聞いてみる。さらに次の来院時に「できた日はありましたか?」と聞いてみる。患者さんの言葉や行動が変わるタイミングは必ずやってきます。焦らず根気よく働きかけ続けることも、歯科衛生士の大切な仕事です。
患者さんと情報交換する
積極的にセルフケアに取り組んでほしい、というのは歯科衛生士みんなの願い。でも、一方的に正しい情報を伝えるだけだと、患者さんは受け身になってしまいます。
そこで大切にしたいのが、情報を「伝える」のではなく「交換する」こと。何か伝えたいことがあるときにはまず、患者さんがそのテーマについてどんなことをどのくらい知っているのかを聞き、それからこちらが持つ情報を伝えるようにします。そして最後に、どう思ったかを聞きます。
自分の考えや知っていることを話すのは、楽しくて気持ちがいいもの。患者さんは自分が尊重されているという感覚になり、こちらが伝える情報を好意的に受け止めてくれます。
歯科衛生士は“サポーター”
「私が患者さんの健康を守らなければ!」、そんな責任感が強い人ほど、つい「教師」のような言動になってしまうことがあります。でも、健康をつくるのは患者さん自身。歯科衛生士の役割はあくまでもサポーターです。
セルフケアの意味や理由を患者さんが自分の頭で考えられるように。自分で気づいて自分でスタートできるように。そして、自分の意志で習慣にできるように。
1~4でお伝えした患者さんとの関わり方を、まずはひとつ実践してみませんか?
- 患者さんが話す時間を増やそう
- 「健康でいたい理由」を言葉にしてもらうと行動につながりやすい
- 根気よく働きかけて変化のチャンスを待とう
- 情報は「伝える」ではなく「交換する」
リン・カーライル.2019年.『MI(エムアイ) 世界の医療界が変わった、MIの“問いかけ話法”』 .
株式会社オーラルケア.2018年.『常識を破り、プライドを貫く。 患者が求める真の歯科医療を追求した予防歯科のレジェンド』.
発行元はすべて株式会社オーラルケア